美馬レディースクリニックは東京メトロ赤坂駅1番出口、赤坂BIZタワーの目の前にあります。度重なる病気を克服してこの地にクリニックを構えたのは美馬博史先生が70歳の時。
慈恵会医科大学付属病院での研修医時代、函館での美馬産科婦人科病院時代、70歳で東京・赤坂に進出した経緯や自然妊娠にこだわる診療スタイルなどについて伺いました。
父が東京・滝野川で産婦人科のクリニックを開業していました。戦争でクリニックが焼失したため、故郷の函館に戻って再び開業しました。
父の背中を見て育った私は、ごく自然に医師の道を志すようになり、慈恵会医科大学に進学しました。卒業後は、同大学附属病院の産婦人科に勤務し、臨床経験を積みました。
医局勤務の研修医時代には一晩で10件のお産を担当したことがあり、この記録はいまだに破られていないそうです。多いときには月に150件のお産を担当、厳しい現場でしたがこの経験があってこそ今があると思っています。
大学では入学と同時に慈恵医大創設者高木兼寛先生の考え方に由来する「病気を診ずして病人を診よ」という建学の精神を教えられました。
この言葉は単に病気だけを治療するのではなく、患者さんの苦しみや不安に寄り添い、その人全体を支える医療を目指すための象徴的な言葉となっています。
高木兼寛先生は海軍軍医総監も務めた方で、脚気に悩む海軍の兵隊達を食事改善で救ったことでも有名です。「病気を診ずして病人を診よ」は私の座右の銘です。
その後、函館に戻って父の病院を手伝いながら、長年お産や更年期、不妊症などの治療に携わりました。美馬産科婦人科病院を引き継いだ時、3つの目標を掲げました。
不妊症についても函館ではナンバーワンの実績となった頃、あるとき急に、体調がいつもとは何かが違うと感じました。検査で直腸がんが見つかりました。
治療をどうするか病院をどうするか妻と二人で相当迷いましたが治療と病院経営は両立できないと決意、大学時代の仲間が多い東京に転居して治療に専念することに決めました。
直腸がんは大学のラグビー部の後輩に手術をしてもらいました。大学時代はラグビー部だったんです。これまでも様々な場面でラグビー部の仲間には本当に助けられました。
慈恵医大での直腸がんの手術直後、入院中に心筋梗塞と脳梗塞が立て続けに見つかりました。その後間もなくがんが肝臓に転移してこれも手術しました。
今からはちょっと想像がつかないと思いますが以前は結構太っていました。お酒を飲んで、美味しいものを食べていました。函館は特に魚が美味しいところなので、つい飲み過ぎ食べ過ぎの生活をしていたと思います。
幸運なことに手術が成功してとても元氣になって、東京に転居した頃には考えてもみなかったことですが、仕事への意欲がわいてきました。
物件を探し始めたところ地下鉄赤坂駅のすぐそば、赤坂BIZタワーの目の前に良い物件を見つけ、不妊症に特化したクリニックを開業したというわけです。2014年のことでした。
開業当初、全く患者さんは来ませんでしたが、私には今までの経験があるので、絶対に通用するという自信がありました。それから12年が経過しました。
患者さんの自然妊娠力を高めるため、精度の高い検査で妊娠力と卵巣年齢をチェック、患者さんの個人差に応じて受精能力の高い卵子を育てるホルモン療法等を行っています。
合わせて、自然妊娠力を高める生活習慣や食生活の改善を指導します。そのうえでタイミング法のほか、必要なご夫婦には人工授精を受けていただきます。
40歳以上の方を含めて、一般不妊治療で多くの方が妊娠に成功しています。この実績は私が長年、体外受精・顕微授精に携わってきたからこその結果と自負しています。
気になっているのがピルです。
ピルは飲んだ段階で女性ホルモンの分泌がゼロになります。女性ホルモンはコレステロールを抑えてくれます。コレステロールや中性脂肪が上がると脳梗塞や心筋梗塞の原因になります。
そういう患者さんを見てきましたので、女性ホルモンがゼロになる閉経後の方たちは脳梗塞とか心筋梗塞に注意が必要です。
統計的には更年期障害で仕事も休まなければだめという人が25%、症状はあっても仕事ができるといういわゆる更年期症状の人たちが65%、残りの10%は何も症状がないという人です。どちらかというと細かいことは気にしないマイペースな人は更年期症状にはならないですね。
閉経後の更年期障害と同じような状況になりかねないので、ピルはよほど気をつけなければいけません。長期間ピルを飲むと、止めてもすぐに妊娠しません。ピルを長期間飲んでいると卵巣年齢が45歳以上という人が増えてきます。
安易にピルを処方するのは考えものだと思います。妊娠できなくなる可能性や更年期障害のような症状が出てくる可能性など、リスクもしっかり説明することが大切です。シミシワも増えてくる、骨も弱ってくる、認知症になる人もいる。まだ若いからもっているというだけで少しずつ進んできます。
もう一つ、女性の病気で苦労するのは子宮内膜症です。原因がはっきりしていないのですが、私の臨床経験からは、紙のナプキンを使わずにコットンの使い捨てや布ナプキンを使った人は症状が軽減されることがあります。
紙のナプキンは石油でできているので、様々な物質が粘膜から相当な勢いで吸収されてしまうのです。そうすると1番最初になるのが月経困難症、生理痛ですね。その次に子宮腺筋症といって子宮の筋層に血腫ができる病気です。血腫ができてそこから出血します。血豆のようなものができるのですが、それがなくなるまではすごく痛い。
卵管から出ていって卵巣に着くとチョコレート膿腫です。卵巣がんになる可能性もありますので、子宮内膜症は相当危険な病気です。原因不明ということなので、紙ナプキンを止めなさいとはあまり言わない。安くて吸収力が良くって薄い紙ナプキンをみんな使ってしまうのです。
ジェノゲストという薬があります。この薬を飲むと生理は止まるのでナプキンが必要なくなるのですが女性ホルモンの分泌には影響しないので10代の人やアスリート、仕事が忙しい人などで生理痛がつらい方のクオリティオブライフ(生活の質)が良くなります。そういったご相談にものっています。
健康になるために役立てて欲しい二つの言葉を紹介します。
最初は一無(いちむ)、二少(にしょう)、三多(さんた)。
🟢一無:一に禁煙。
たばこは止めましょう。
🟢二少:二は少食と少酒。
食べ過ぎ飲み過ぎに注意しましょう。
🟢三多:三は多動、多休、多接。
多動:積極的に体を動かし、運動を習慣にしましょう。
多休:休息や睡眠を十分にとって、回復に務めましょう。
多接:人や物、事柄に多く接し、趣味や興味を持って、心身の健康を保ちましょう。
二つ目は食材の目安「まごわやさしい」
玄米を主食の中心にした上でバランス良く食べましょう。
ま:まめ
ご:ごま(種実類)
わ:わかめ(海藻類)
や:やさい
さ:さかな(魚介類)
し:しいたけ(きのこ類)
い:いも
私はこれまでいくつかの大病を患い、大きな手術も受けてきました。自分自身が病と向き合ってきた経験から、食事の大切さにも気付きました。信頼できる友人達にも随分助けられました。
「一無(いちむ)、二少(にしょう)、三多(さんた)」と「まごわやさしい」は、健康になるために私自身も心がけている言葉です。
不妊症の治療で精神的にストレスを抱えている方をたくさん見てきました。これからの医療に求められるのは「心のケア」です。
慈恵医大建学の精神「病気を診ずして病人を診よ」を胸に刻み、単に病気を治すだけではなく、患者さんの精神的な支えとなる医療を目指します。
現在81歳ですがまだまだ診療は続けるつもりです。一人でも多くの患者さんを笑顔にするために…。
美馬 博史(みま ひろふみ)
1943年東京都生まれ。1968年、東京慈恵会医科大学医学部を卒業。
慈恵会医科大学付属病院産婦人科、函館美馬産科婦人科病院院長を経て、2014年東京赤坂に美馬レディースクリニックを開業。
産科婦人科および不妊治療の臨床医としての長いキャリアを踏まえ、妊孕性(妊娠する力)を守る大切さを訴え、体にやさしいホルモン治療、カウンセリング療法、抗酸化食事療法等を積極的に啓蒙している。