玄米酵素

食改善を推奨する医師・医療従事者へのインタビュー

インタビュー一覧へ

ココロの不調は栄養と深く結びついている。「栄養型うつ」を治す!

日本栄養精神医学研究会 会長/医療法人 山口病院 副院長
奥平智之 先生

ココロの不調は栄養と深く結びついている。「栄養型うつ」を治す!

初めて耳にする方も多いに違いない、「栄養型うつ」。「うつ病」は脳の機能に起因する病気≠セが、「栄養型うつ」は栄養の問題が原因で起こるうつ状態≠フこと。この造語を世に送り出し、「栄養型うつ」による心身の不調に悩む人を減らしたい、と尽力しているのが、奥平智之先生だ。講演会の開催やマンガを交えた書籍の出版など、活動は幅広い。そんな多忙を極める奥平先生に、これまでの歩みや栄養とココロの関係、先生の想いなどを伺った。

鍼灸と漢方、食養で治ったアトピー 東洋医学が活かせると考え精神科へ

医師を目指したのは父の影響です。中学生の時に、スナック菓子をよく食べ、食事をちゃんととらない食生活で、アトピーを発症しました。それを治してくれたのが、鍼灸師の父でした。父は奥平明観といい、『邪気論』『見えない水の科学』などの著書があり、東洋医学に関心のある方はご存知かもしれません。その父の鍼灸や食養生、知り合いの漢方医の先生の煎じ薬などで良くなり、大学2年生頃には完全に治ったと思います。

父からは「お腹を冷すな」とよく言われました。同じ食事をとるにしても、お腹を温めて胃腸の働きを良くして食べると、栄養の吸収率が上がります。西洋医学にはありませんが、東洋医学ではお腹を温める「大建中湯」という漢方薬があります。診察の際も、脈診や舌診、そしてお腹を触ることもします。子どもの頃から、父の治療で患者さんの症状が劇的に改善するのを見ていたので、中学生の頃は鍼灸師になりたいと考えていました。父は東洋医学と西洋医学を組み合わせることで、より多くの人を救うことができると考え、私にその架け橋になってほしいと願っていました。その考えに共感し、医学部に進みました。

ただ、医師になるにしても、元々は東洋医学の医師になりたいと思っていたので、東洋医学が活かせる科はどこかと考えました。循環器や外科では、漢方だけで治療するのは無理です。そこで考えたのは、脳・精神・ココロというメンタルの分野ではないかと。メンタル不調の方は、心だけではなく体の不調も抱えています。東洋医学には、心と体は一体であるという「心身一如」の考え方があります。まさにこのメンタルの分野なら、東洋医学が活かせるのではないか。そう考え、精神神経科と東洋医学科に入局しました。

血液検査の結果を栄養医学的に解釈 隠れた栄養の問題にフォーカス

精神科では通常診療に加え、漢方を取り入れた治療を行っていましたが、なかなか良くならない患者さんもいました。大学の医局の先生から「栄養関係を勉強すると、また違ったアプローチができる」とのアドバイスをもらい、都内の栄養医学的治療を実践するクリニックで学ぶことにしました。その結果、隠れた栄養の問題を解決することにより、精神症状が大きく改善する方が出てきました。比較的症状の軽い方は、栄養状態を適正化するだけで症状が改善してしまうこともありました。完全に薬をやめることはできないにしても、減薬することはできました。

現在治療は、東洋医学的な手法も取り入れながら、現代医学的な血液検査をして、その結果を栄養医学的に解釈するという手法を元に行っています。一般的な健康診断では問題ないとされる数値でも、栄養医学的に解釈すると、鉄が足りない、ビタミンBが不足している、と読めるケースがあります。同じ検査でも、腎臓や肝臓の状態を見るのか、栄養面を生化学的に見るのかでは、基準値も変わります。健康診断の基準値内であっても、栄養医学的には赤信号、黄信号の場合もあります。

実際に外来に来られる患者さんは、ストレスを抱えている方ばかり。夜に全く眠れない、気分が沈んでいて死にたい、頭の中で幻聴が聞こえる…。そうした方は、活性酸素が体の中にいっぱいある状態で、体内に炎症があったり、腸が悪くなっていたりすることもあります。そうした活性酸素や炎症を抑えるために、ビタミンやミネラルが使われ、タンパク質も分解されます。「食事は3食しっかり食べています」と言う方も、血液データを見ると、タンパク質やビタミン、ミネラルが不足している方ばかりです。それが適正化されることで、「夜眠れるようになった」「気持ちが前向きになってきた」「お腹の調子が良くなった」など、心身の状態が改善された方がかなりいます。もちろん、絶対的に不足している栄養素に関しては食事だけでは補いきれないので、サプリメントを使うこともします。

では、どんな食事をとればいいかといえば、基本はおかずをしっかり食べること。各食事にタンパク質を最低2種類は入れましょう。ストレスのある方は、特に意識してタンパク質をとってください。メンタル不調の方に共通していえるのは、ビタミン、ミネラル、そしてタンパク質を普通の人より多めにとること。また、朝に不調のある方が多いのですが、朝はご飯と具沢山のお味噌汁がおすすめです。お味噌汁は腸を温めてくれます。腸が温まると腸の働きが良くなり、栄養の吸収率の向上が期待できます。朝はパン食の方が多いのですが、小麦が潜在的に腸の負担になることもあるので、朝はご飯をおすすめします。こうした栄養素の不足が原因で起こるメンタル不調を「栄養型うつ」と命名し、啓発活動を行っています。栄養素は通常、何か一つが足りないというより、複合的な要因で心身に不調を来します。必要なものを適切に補っていけば、飲んでいる抗不安薬や抗うつ薬を減らしやすくなります。

東洋医学的治療との共通点 最も大事なのは「腸活」

このような栄養医学的な治療の基本は、東洋医学的な治療と共通する点があります。それは「腸を立て直す」ということ。漢方薬による治療の場合、胃腸に負担がかかるような強い漢方薬であれば、まずは胃腸を整えることを優先します。栄養医学的治療もそこは似ていて、腸が悪い人はまずは腸を整えることが大切です。いわゆる腸活が先になります。特に、鉄の場合は、腸の炎症がなくなってから鉄サプリを補います。

腸の炎症の有無に関しては、まずはチェックリストで、自覚症状や生活習慣を確認します。食べるのが早い、よく噛まない、おならがよく出るという方も腸の炎症が疑われます。加えて、血液検査によりどこかに炎症がないかをチェックし、お腹の触診をします。

腸を立て直すという意味では、漢方薬を使い、時に「玄米酵素」を使うこともあります。漢方薬はいろいろな生薬が混ざっていて、相互作用により気を巡らせたり、血流を良くしたりして治療していくイメージです。「玄米酵素」は腸内環境を良くして、短鎖脂肪酸を増やし、炎症改善のサポートとなるので、栄養医学的治療の一環として取り入れています。「玄米酵素」を食べている患者さんは、便通が良くなり量も増えたと話しています。

日本女性の約6割は鉄欠乏 鉄サプリは検査のうえで

先ほど触れた「栄養型うつ」の中でも、特に心配なのが鉄欠乏です。女性やお子さんに多く、女性の場合は生理があることに起因します。お子さんの場合は、女の子だけではなく男の子もです。成長期のため、鉄がたくさん使われてしまうのです。鉄が足りないと、記憶力や学習能力の低下、疲れやすい、持続的に学習できない、といったことが起こります。外来に来られている患者さんは、圧倒的に女性が多いのですが、子どもも診てほしいと言われます。発達障害や不登校、適応障害のお子さんも多く、栄養医学的治療を行うと、体調が良くなり、朝も起きられるようになるなど、心身の状態が安定してくるお子さんは少なくありません。

鉄というのは、脳の神経を作るのに大事な働きをします。重度の鉄欠乏のお母さんが出産すると、お子さんが発達障害や統合失調症になるリスクが上がります。妊娠する前に、栄養医学的な血液検査をして、栄養状態を良くしてから妊娠するのが良いと思います。

ただし、鉄欠乏と言っても貧血まで至らない場合も多く、鉄欠乏の多くの方に貧血はありません。貯蔵鉄量を反映する「フェリチン値」が基準で、生理のある女性の場合は25以下だと鉄欠乏といえます。厚生労働省の国民健康調査によると、日本女性の約6割が該当します。爪をみると推測できるのですが、鉄が足りなくなると親指の爪から順に柔らかくなり、爪がつぶれて平べったくなってきます。エネルギーがうまく作れず、指先も冷えてきます。高齢者の場合は、何らかの炎症を抱えていることがあるので、フェリチン値が本来の鉄の値を示さず、見かけ上、高くなっている人が多いです。炎症があると、生体の防御反応として、血液中に鉄を流さず、鉄をフェリチンとして溜め込んでしまうからです。

注意したいのは、鉄欠乏には2タイプあること。「鉄サプリを飲んだ方がいい鉄欠乏」と「鉄サプリを飲まない方がいい鉄欠乏」の方がいます。鉄は過剰にとった場合、体外に適切に排泄する手段がありません。そのため、必要な分だけしか吸収しないように、腸が厳格にコントロールしています。何らかの炎症がある時、仮に鉄が足りないとしても、腸は鉄をブロックします。人間の歴史は感染症との闘いともいわれています。細菌も鉄を材料に増殖するため、人間の体は炎症がある時は、血液中に鉄をなるべく流さないようにします。そうしないと、細菌が増殖して死に至るかもしれないからです。もちろん、腸からも吸収させない仕組みになっています。

例えば、腸に炎症が起きている方は、鉄を吸収しないわけですから、まず腸をある程度良くしてからでないと鉄サプリをとらない方がいいと思います。吸収しないままの状態で鉄サプリをとれば、腸内の有害菌の餌になり、有害菌が増殖して毒素を出します。それが炎症を生み、鉄の吸収障害や利用障害に繋がり、患者さんはどんどん難治化していきます。ですから、腸内環境が悪い方は、まずは腸活をして、その後血液検査で炎症がないことを確認し、それから吸収効率のいい鉄サプリを飲む、ということです。検査もなしで安易に鉄サプリを飲むことはしないでください。

食事と栄養の大切さを伝え 不調に悩む人を減らしたい

現在の山口病院には20年ほど勤務していますが、その前は都立広尾病院にいました。広尾病院の外来の患者さんは多くが若い女性。救急患者も受け入れていましたので、薬を大量に服用したり、リストカットなどの自殺行為をしたりする方もたくさんいました。精神療法と薬物療法を行い、できる限りのことはしていましたが、亡くなった女性もいて、今でも顔を覚えています。当時は、漢方の知識はあったのですが、栄養医学的治療の知識はまだなく、今思えば、隠れた鉄欠乏などの栄養問題を見逃していたのではないかと思います。鉄欠乏では衝動性が増したり、うつ状態がより悪化したりする可能性があります。あの時に、今の栄養の知識があれば…と悔やんでなりません。そうした患者さんを一人でも減らしていくために、どこの医療機関でも、薬物治療だけでなく、栄養の問題を見逃さずに治療できるようにするのが、私の使命だと思っています。そのため、2016年に「日本栄養精神医学研究会」を立ち上げました。栄養が精神症状にさまざまな影響を及ぼしていることを多くの先生方に知ってもらいたいと考え活動しています。

一般の方々に向けては、現在5冊の書籍を出版して、食事の大切さをお伝えしています。元々は、患者さん一人ひとりに説明していたのですが、限られた診療時間を、一般的なことではなく、患者さん一人ひとりの個別の話に使えるように、コロナ禍前は病院からほど近い会場で毎月講演会を開いていました。ただ、地元の方だけでなく、全国の方に知っていただきたいと思い、書籍にまとめることにしました。一般向けですが、医療関係者の方が見ても参考になる検査データの基準値やデータ推移なども掲載しています。



精神疾患だけでなく、がんや糖尿病などどんな疾患でも、遺伝的要素は大なり小なりあります。しかし、そうした先天的要因や遺伝子を持っていたとしても、必ずしも発症するとは限りません。後天的なストレスや生活環境、食習慣などが影響して、コップの水が溢れるようにして発症するのです。「メンタルヘルスは食事から」。ぜひとも食事や栄養の大切さを知っていただき、一人でも多くの方に食事や栄養の大切さをお伝えいただければと思います。

Profile

奥平智之(おくだいらともゆき)
日本栄養精神医学研究会 会長、医療法人 山口病院(埼玉県川越市) 副院長、精神科専門医、漢方専門医、認知症専門医。「メンタルヘルスは食事から」をモットーに、食事や栄養療法、漢方治療を重視した精神科診療を実践している。貧血がないために鉄欠乏が見逃され、心身の不調に苦しむ女性や子供が多いことから、鉄欠乏の女性を「鉄欠乏女子(テケジョ)」鉄欠乏の子供を「鉄欠乏子供(テケコ)」、栄養の問題が原因のメンタル不調を「栄養型うつ」と命名し、啓発活動を行っている。栄養面からアプローチする精神医学を広めるために、2016年に日本栄養精神医学研究会を発足、会長を務める。

講演会情報は▶https://www.dr-okudaira.com
最新情報は▶https://www.facebook.com/okudaira.tomoyuki