JR広島駅から徒歩5分。カープロード沿いのビルの3階に「兵庫内科・肝臓糖尿病クリニック」はある。病名を入れたユニークな名称は「かなり迷って決めた」と兵庫秀幸院長は語る。元々は消化器内科で胆石症などを研究。その根本原因はコレステロールであり、肥満や肝臓病につながって糖尿病を引き起こす―その注意喚起の意味を込めたと。では、そのような生活習慣病の改善には何をどうすればよいか、先生のお考えを伺った。
肥満や生活習慣病の改善のためにすべきことの一番は「運動」です。これは20年前の厚生労働省のホームページにも書いてありました。しかし、フィットネスジムに行けるのは余裕のある一部の人だけ。一般の人に運動を広めるのはとても難しい。人間は運動よりも、体にいいものを食べる、あるいはサプリメントをとる、という方が楽なのでそちらに行きやすい。それが間違いの元なのです。
運動に関しては、定期的に行っている人の方が総摂取カロリーは落ちるというデータがあります。健康のためなら、筋肉痛が起きない程度の軽めの運動で、毎日ではなく間隔を空けてやるので十分。また、生活習慣病の改善目的の場合は、運動をする順番も大事で、まずスクワットなどの軽いレジスタンス運動(筋トレ)を少しやってから有酸素運動をする。筋肉を少し収縮させると、筋肉からマイオカインというホルモンが出て、それが糖質、脂質、たんぱく質の代謝にいい影響を与える。そのいいホルモンを出させてから有酸素運動をすると有効であるということが研究で分かってきました。
もう一つ大事なのが、いつ運動するかです。運動のタイミングと血糖の関係を調べた研究があって、同じカロリー摂取で同じ運動量の場合、夕食前と夕食後では夕食前に運動したグループの方が悪い。通常、人は昼間に働いて夕食頃にはお腹が空く。そのエネルギー不足の時に運動すると代謝が狂う。つまり、空腹を助長するような運動をして筋肉を疲れさせると、その後にとった夕食の血糖の上昇が著しく、生活習慣病が悪くなるのです。昔から、日の当たるうちに食べる人は太らないといいますが、日中食べたものは代謝して健康にそれほど悪い影響は与えません。
初診の場合、僕は1時間くらい詳細に患者さんのライフスタイルを聴きます。患者さんもいろいろで「食べていないのに太る」と言う方もいらっしゃる。その上で何をどう改善したらよいか、話を聴いて見極める。つまり、一つの理論が全ての人に合うとは言えないわけです。最近はいろんな食事療法が話題になっていますが、プチ断食や断食療法もやり方次第。「空腹」の時間が大事だという理論から1日1食にする方もいますが、誰にでも当てはまるわけではありません。肝硬変や心不全などの臓器障害がある方には危険な場合もあります。人それぞれに合うものが異なるということ。
例えば、朝食を食べるか否かといったことも、それぞれ個人の遺伝子の中に、狩猟民族と農耕民族のどちらの遺伝子が組み込まれているか、それによっても違うのです。農耕民族は朝起きて食べ物があるから食べて血糖を上げる。狩猟民族は猟に行ってから食べるというサイクル。遺伝子を調べると、自分がそのどちらなのかが分かる。その遺伝子のスイッチが入っているか否かもありますが…、要は人それぞれ違いがあるので、一概にこれが良いとは言えないということ。
今年、管理栄養士を含めた僕らの医師グループで、肥満や糖尿、脂肪肝のある人の栄養調査を行い、その結果を今論文にまとめています。そこには、明らかにカロリーオーバーの人もいますが、全くそうではない人もいる。「それほど食べていないのになぜ太るのでしょう」と言う人は、確かにカロリーはとっていませんでした。集計結果では、総摂取カロリーは、病気の人、肥満の人、やせている人、健康な人、いずれも同程度でした。だから、カロリーを問題視するのは間違いで、何が違うかというと、ミネラルと食物繊維の不足、そして加工食品の利用が多いことでした。炭水化物は食べ過ぎると太るといわれますが、糖質+食物繊維が炭水化物なので、本来は体にいい食べ物なのですが、それを小麦粉や米粉に加工して、食物繊維を台無しにしている。食物繊維は全ての害を取ってくれるものなのですから。また、コンビニのサラダの野菜などは、衛生・安全面を考慮して次亜塩素酸で洗っているため、ミネラルが流出しています。そういう栄養素のなくなった物を食べていたのではミネラル不足に陥ります。
病気を遠ざけるには、やはり人工物ではない本物の食材を扱っているところを選んで活用するしかないと思います。食べ物が本物かどうか、本来の味覚が分かるようになるには、幼少期の食べ物にかかっているそうです。それも「つ」のつく年齢まで。すなわち、「九つ」くらいまでに身についていたら、それ以降は放っておいても大丈夫だそうです。
日本では作っていませんが、遺伝子組み換え食物を世界で一番食べているのは日本人だと言われています。作っている国の作物を大量に輸入しており、例えば、納豆の表示に「アメリカ産大豆(遺伝子組み換えでない)」と書いてある物がありますが、数%入っていてもそう表示できるのです。アメリカから輸入の大豆は9割が遺伝子組み換え大豆です。1%程度混入していても、日本では「非遺伝子組み換え」と表示できる。欧米は0.9%ですが、日本では5%まで遺伝子組み換え食物の使用が許可されているのです。
遺伝子組み換えには二通りあって、除草剤をかけたら害虫は死ぬが、かけられた草は死なないという除草剤耐性をもつもの。もう一つは、その食物を食べると食べた虫が死ぬという殺虫性をもつもの。このどちらかの特徴をもっているのが遺伝子組み換え作物です。僕らが一般にイメージしている「食物の遺伝子をちょっと組み換えて…」などというものではないのです。
海外での例ですが、衝撃的なのは遺伝子組み換えのニワトリ。肉を食べるためだけに作られたニワトリで、羽がない。羽がなければ殺すだけで食べられます。鮭も、すごく大きくなるものは遺伝子組み換えで作っています。養殖の場合、南米では抗生物質をたくさん食べさせている。それを食べた僕らが抗生物質の薬物耐性になっている可能性もあります。天然のものはまた寄生虫の問題など別の面で心配なこともあります。どのように考えて食物選びをするか…大切なことです。
実は、遺伝子組み換えの表示義務がない食品があって、それが醤油と油です。サラダ油やキャノーラ油などの人工的に作った油はやはり体によくありません。これをエクストラバージンのオリーブオイルに替えるだけでも病気は減ります。えごま、亜麻仁油も良いのですが、生で食べないといけないのと、酸化しやすいので早く使い切らないといけません。ごま油も大人にはいいのですが、アレルギーが増えるといいます。一番大事なのは、トランス脂肪酸(※)を避けること。オリーブオイルでも、単なるバージンオイルでは有機溶剤で溶かし出しているのでよくありません。
砂糖については、白砂糖は体によくないというのはある意味正しいのですが、では三温糖や黒砂糖が良いかといえば必ずしもそうとはいえない。三温糖は3回温めて作るから、AGE(たんぱく質と糖が加熱されてできた物質で特に糖尿病に悪影響を及ぼす)が増える。黒糖もミネラルが多いといわれますが、他の物でとればいい程度の違いです。ミネラルには本来色はついていませんから、黒いからミネラルが多いわけではない。久米島辺りのいい黒糖は薄い茶色です。
食後の高血糖を避けるために低GI値の食品が好まれていますが、糖尿病やその合併症、アンチエイジングにも、GI値で表されるグルコース(ブドウ糖)よりも果糖の方が10倍悪いのです。例えば、蜂蜜のGI値は基準の100より低いのですが、40%果糖で40%がブドウ糖です。血糖の上昇は抑えられますが、ブドウ糖の10倍AGEを作りやすい果糖が含まれている。適量をとるのはいいですが、そればかりとるのはよくない。その点、日本の調味料のみりんはGI値も15でいいです。
塩に関しても、天然塩、ミネラルを含んだ塩などいろいろあり、それぞれに違いはありますが、大事なのは食べ合わせです。塩分をとっても、緑黄色野菜などの食物繊維を含む野菜をとっていれば吸収率は下がるので、害は減ります。加工食品の利用で塩分量が多いのは問題ですが、1日6グラムなどという摂取基準値はあまり気にする必要はないと思います。
やはり、日本人が昔からやってきた食べ方や調理法は理にかなっていますね。食べる順番でいえば、懐石料理がいいです。まず前菜を食べて、その後にたんぱく質、そして最後がご飯。その順番で食べるだけで、血糖の上がり方は変わります。
外食などで最初に野菜が食べられない時、僕は食事の前に「玄米酵素」を2袋食べます。最初に食物繊維をお腹に入れてしまうわけです。玄米も、無農薬で有機栽培ならいいですが、正しい調理の仕方でないと難しい。ですから、白米を食べて足りない栄養素は「玄米酵素」でとるのでいいと思います。料理の手法としては、「蒸す」「湯がく」が中心だったのが、揚げ物や電子レンジが普及してきて生活習慣病が増えました。電子レンジは電磁波が出ますから、できるだけ使わない方がいいです。
「玄米酵素」などのお勧め品コーナー
僕は元々大学院で胆汁酸、すなわち胆石の研究をしてきました。その大元はコレステロールですが、延長上で肥満や肝臓の代謝をずっと研究してきました。そして、西洋医学のいろんな医薬品を使って生活習慣病の治療をしてきたわけですが、限界があることが分かった。片や栄養学では食べ物の基礎研究はある。しかし、医療システムと栄養指導はそこまでリンクしていないのです。患者さんも栄養指導を受けても、なかなか行動変容は難しい。そこで、医療者側も患者さんも薬で治そうとなる。しかし、自らのライフスタイルが原因の生活習慣病というのは、運動して食事に気をつけないと長寿には結びつきません。
先頃、世界一の長寿者だった田中力子(カネ)さんが亡くなりました。119歳でした。あの人は、自分の好きなことをしてよく笑い、好きな物を食べていたそうです。年相応という表現がありますが、長寿の人は調べてみると、血管も臓器も年相応ではなく若いまま。今は、何歳まで生きられるかは個人個人によって相当違います。健康のためには、運動して食事に気をつけ、自分で努力するしかありません。薬はあくまでもサポートです。運動はしたくないという患者さんに、僕は「深呼吸をしてください」と言います。体の筋肉の中で最初に老化が始まるのは横隔膜です。思いっきり息を吐くと横隔膜がぎゅーっと縮んで、運動になる。どんなに時間がなくても、深呼吸くらいはしてほしい︱切なる願いです。
※トランス脂肪酸は、マーガリンやショートニングに多く含まれています。また、原材料に「食品用精製加工油脂」などの表記があれば、トランス脂肪酸が含まれていると考えられます。
勉強会やセミナーのためのスペース。専門トレーナーによるヨガ教室や運動指導もここで
高濃度ビタミンC点滴などがリラックスして受けられる
兵庫 秀幸(ひょうご ひでゆき)
1968年広島県生まれ。1992年広島大学医学部を卒業。卒業後、静岡県立総合病院(内科・外科・麻酔科)へ。1996年より広島大学医学部附属病院 第一内科(現消化器代謝内科)勤務。1997年広島大学大学院。2000年より2年間、ニューヨークのアルバート・アインシュタイン医科大学 肝臓研究センターに留学。帰国後、広島大学病院(消化器代謝内科診療講師、総合診療科助教)、JA広島総合病院(肝臓内科主任部長、消化器内科部長)を経て、2021年10月より兵庫内科・肝臓糖尿病クリニック院長。佐賀大学医学部臨床教授も併任。