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食改善を推奨する医師・医療従事者へのインタビュー

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脳の健康にも食事が関与!?院内に「食養教室」を開設し患者さんと家族を応援!

あしかりクリニック 院長/日本綜合医学会 会長
芦刈 伊世子 先生

脳の健康にも食事が関与!?院内に「食養教室」を開設し患者さんと家族を応援!

「脳腸相関」なる言葉を最近よく耳にする。腸内環境、つまり食事が脳に影響をもたらすという現象で、医学的な研究が進んでいる。そんな中、精神・神経科と心療内科を専門とするあしかりクリニック院長・芦刈伊世子先生は、院内にキッチンスタジオを設け、食養≠フ考えに基づく料理教室を開催している。参加者のほとんどは患者さんだが、その家族や一般の人の参加も可能だ。今年度より日本綜合医学会会長にも就任された芦刈先生に、食養との出会いや認知症予防・介護のことなどを伺った。

「漢方の前に食養≠学ぶべき」王瑞雲先生のアドバイスで食養学院へ

 精神科医になろうと思ったのは、長崎大学医学部に入ってから。学内書店で浜田晋氏や小此木啓吾氏の本と出会い、精神科という領域を知りました。実は長崎大学は、統合失調症治療におけるWHOの指定病院。精神科病棟では作業療法や運動療法などさまざまなセラピーを行っていました。長崎は原爆を投下された地のため、白血病を治療する医師が奔走する姿を見る一方、精神科のような人生や生活全体を長い年月支える科もあるのだなと興味を持ちました。

 長崎大学卒業後は、慶応義塾大学医学部精神・神経科教室へ入室。精神分析的なアプローチも学びましたが、患者さん一人一人にぴったりの薬を処方したいと思い、薬理学研究室に入りました。薬理の場合は、精神分析と違い生物学的で、脳を臓器として捉えています。ただ、経験を積むうちに、患者さんの多様なニーズに触れ、薬以外に治療法はないかと。ヨガにマインドフルネス、認知行動療法、漢方…、いろいろ学びました。そして、ある友人との出会いから漢方薬を勉強したいと思いました。

 そこで紹介されたのが王瑞雲先生でした。「漢方薬を学びたい」と相談したところ、「食養ができている人でないと、漢方薬は効かないわよ」と言われました。その時初めて、食養を知り、その後食養学院に入って、食べ物や運動について学びました。たまたまその頃、私は子宮がん検診でがんになる手前の異型細胞があると診断され、食養を本気で実践してみることにしました。主食を玄米にし、動物性のものはできるだけ避け、食べても魚か少しの鶏肉。パンもなるべく食べないようにし、乳製品は完全にやめました。そうして3ヵ月ほど取り組んだ結果、再検査では異型細胞がきれいになくなり、家族も全員が健康になったのです。体は3ヵ月で変わるのだと実感しました。

食養による健康体験を伝えるためにキッチンスタジオ併設のクリニックを

 こうした食養による健康体験を患者さんにも教えてあげたい、薬物療法以外の治療も行いたいと考え、平成14年に開設したビル診療から現在の場所に平成26年に移転建築しました。2階のスタジオで料理、ヨガ、セミナーもできるようにしました。食養教室は現在、河村かづし食養指導士が中心となって行っています。食養学院で学び、王先生の紹介で来てくれた方です。河村さんたちは「風邪の季節の食養生」や「季節のハーブティと冬野菜でイタリアン」、「血行改善、薬膳の知恵袋」等々、いろいろなテーマでレシピをたくさん作ってくれました。さらに『365日、玄米で認知症予防』と題した本も出版しました。

 教室では、料理だけでなく、心身と食べ物の関係や一物全体食、身土不二などの食養の基本や東城百合子さんの自然療法、王先生のお手当等も学びます。食養教室では最初に振り返りの時間があります。「皆さん、食生活はどうしていましたか?」と尋ねるのですが、「また甘いものを食べちゃって…」と言う人も。すると、「こうすると甘いものを食べなくてすむわよ」と自分の経験を話してくれる人がいて、健康になるための方法を皆で分かち合っている感じです。そして一緒に料理を作って食べる。教室に通い続けている方はそうした交流も楽しんでいらっしゃるようです。

認知症の予防教室をはじめ家族の応援や当事者懇親会の開催も

 クリニックでは、本気の認知症予防教室も開いています。自分でできる予防法として一番大事なのは「有酸素運動」です。50代60代なら、テニスや水泳がおすすめです。速足で歩くのもいいと思います。二番目は「前向きな心」。心配性の方はネガティブシンキングになりがちで、副腎のコルチゾールが増えて脳にダメージを与えているという仮説もあります。三番目が栄養(食事)です。和食で動物性脂肪を減らし、水溶性食物繊維や抗酸化作用のあるファイトケミカルをたくさんとる。魚やオリーブ油を使った地中海料理もよいです。

 京都府立医大の内藤裕二先生の企画した「臨床栄養」によると、水溶性食物繊維をたくさんとると、善玉菌が酢酸・酪酸・プロピオン酸の3つに分解し、プロピオン酸と酪酸が肝臓の門脈の受容体にくっついて、脳にシグナルを送っているとありました。水溶性食物繊維を増やして動物性脂肪を減らすとどうなるか、パイロット研究をしたところ、善玉菌も増え、精神症状も改善しました。精神状態が変わるには少なくとも3ヵ月はかかると思いますが、運動や食事や生きがいをもつことでもっと早く回復すると思います。

 クリニックでは平成27年から、東京都の委託で、中野区の地域連携型認知症疾患医療センターとなっており、かかりつけ医、介護保険事業所、ケアマネジャーと連携して患者さんの診療を行っています。

 介護する家族は大きなストレスを抱えています。その荷を降ろし、語り合う認知症家族教室を開催しています。認知症当事者懇親会なども開こうと考えています。認知症に限らず、精神疾患や生活習慣病・がんの予防も行っています。たとえ病気になっても安心して生活できる地域社会になるよう応援していこうと思います。

Profile

芦刈 伊世子(あしかり いよこ)
兵庫県生まれ。医学博士。1990年長崎大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部精神・神経科で学んだ後、国立病院東京医療センター、慈雲堂病院、浴風会病院勤務等を経て、2002年にあしかりクリニックを開設。東京精神神経科診療所協会副会長、日本精神神経科診療所協会理事、日本綜合医学会会長。著書として『365日、玄米で認知症予防』(清流出版)『目撃!認知症の現場』(一ツ橋書店)『玄米のエビデンス』(キラジェンヌ) 共著等。